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日々の破片

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2008-04-10

_ 誰のために書くか

受託開発の極意を読了。

受託開発の極意―変化はあなたから始まる。現場から学ぶ実践手法 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)(岡島 幸男)

この本について何か書くのって、難しい。

というのは、不思議なところがあるからだ。

最初の部分は、ふむふむ、なるほど、そうでしたか、ああおれはまちがっていたようだ、とかいろいろ気づきもあれば、自省するところもあって、深彫りは読者に投げているけど、それは極意と書いてあるからそんなもんだろう(剣術の極意の指南とかみたいだ。手取り足取りは極意の指南じゃないね)。書かれている内容には具体性はないのだけど(事例+指南というパターンで書かれた本ではないからだ)、こちらの経験を事例として対比できるようにうまく書いてあるから、短くても十分な内容になっているのだろう。つまり、筆者の知見をうまく昇華して、表題通りの極意本になっていると感じた。

思うに、何かしら読者の知見と一致点があると、そこが接点になるから、未知なことについて素直に納得できたり、実証してみようというような気になる。で、この本はそういうパターンにはまっている。

で、ふむふむリーダーとか単純に読んでおもしろいパートを過ぎたあたりから、ちょっと風向きが変わってきて、最後、うさんくさいとまでは言わないが、なんというか違う本になってきたようだな、と感じているうちに、おしまい、という感じ。わりと薄い本なので、そう感じたのかも知れないけど。

本を書くときは、想定読者を作って書くと思う(人によるだろうけど、実用書はそうやって書くものではないかと思うし、僕はそうしている)。

この本からは、前半と後半で想定読者が異なるのではないか、という印象を受けた。

前半は筆者自身を想定読者にして、振り返り、思考実験による再試行をし、そこから得られた知見を次の実務にふりあてて、といった作業の末、見つけた極意を、何よりも自分のために整理したという印象を受ける。ようするに、無茶苦茶に地に足がつき、そこから延びた太い幹が脳みそにつながっているという感じだ。

それに対して後半は、微妙に自分の信ずるところと違うことも意識的に含めて、後輩とか部下に対して、説明しているような印象を受ける。もちろん、それはありなわけだが、何か違う本を読んでいるような気分になった。読者の僕が、おそらく後半の想定読者から外れているから、そういう印象を受けるのかも知れないが、前半を読んでいるときに感じた説得力にくらべると、ちょっと不思議な感じはする。

でも、たぶん、それが良いのだと思う。前半の視点と後半の視点が同居できれば、間違いなく強いだろう。というわけで、経験3年以上で(あまり実務経験がないと感触がつかみにくいかも)、(ある意味悪い言い方ではあるが)懲りずにIT業界でやっていこうと考えているなら、読んで考えて試してみる価値がある。そういう本だった。


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