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日々の破片

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2010-06-27

_ ロイヤルバレエのロミオとジュリエット

昨日は、コジョカルとコボー(の代役のペネファーザー、やっと主役に本国人が出てきたような)のロミオとジュリエット。

これまで、シティバレエ、熊川で2回+DVDのロイヤルと観て来たが、観るたびに発見があるのは、音楽の変え方と演出の力の入れ所がそれぞれ違うからだろうな。

ケネス・マクミランのロミオとジュリエット [DVD](英国ロイヤル・バレエ)

(これより良かった)

まず、前奏の激しいテンポの変え方に驚く。いや、これはすごいや。こんなに情動的だとは。

そして大公の登場シーンが(これまでちゃんと意識していなかったのだが)序曲冒頭の金管による激しい不協和音が弦によって解決されそうでされない不安定なモティーフだということに意表を突かれる。

おそらく序曲での振り方が、ジュリエットの(仮の)死の衝撃によって物語が(僧ロレンツォの思惑通りに進めば)解決するはずが、解決されずにさらに悲劇が尾を引く、という物語の主題の表現を示しているかのように聴こえたからだろう。いや、大公の仲裁が結局は役に立たなかったことを考えれば、これはこれで悲劇と解決できない状況というモティーフだろうという聴き取りは間違いではないかも知れないが。

演出でおおおおおおと賛嘆、感嘆、驚嘆したのは、キュピレット家の舞踏会で、これまでは退屈していたのだが、この演出は異なる。

舞台背景と客人とキュピレット夫妻の油彩を思わせる渋い色調で重たい舞踏をしている(それは舞踏会の政治的な重要さをうかがわせるに足る演出だと最初は読めるし、事実その通りなのだが)のに対して、妙にロミオの服がパステルカラーの水色と白タイツで違和感があったのだが、そこにジュリエットの白い服が入ると、こはいかに。両袖で二人がお互いに意識しあっているその最中に舞台全体で繰り広げられる重層な舞踏会という構図が実に見事に浮き上がってくる。ライティング、舞台装置の造形、衣装の選択、これこそ舞台芸術ってものだ。素晴らしい。二人の物理的な距離と色彩による近さ、それを分断する重層な何か(歴史的な諸因縁とか)の描き方が見事だ。したがって、心の動きが鮮明に舞台化されているので退屈する閑などありはしない。

マンドリンはジュリエットが演奏する演出となっている。

前後するが、ジュリエットの登場シーンでは子供っぽさが強調される。乳母との縫いぐるみを使ったおふざけ、縫いぐるみに乳をやるままごととそれに対してまだまだ子供のくせにという乳母の乳房の大きさを揶揄されるやり取り(これはすべてのバージョンで出ていたが、子供っぽさの強調が縫いぐるみのキャッチボールによって強調されている)。14歳どころか、11歳ぐらいだよね、と後で子供と話す。

という子供の浅知恵で、僧ロレンツォ(こいつがこれまた世間知らずの大馬鹿者だというのが問題)を通して神様(こいつが沈黙する存在だということはシェークスピアの時代からみんな知っている)がすべて解決してくれると結婚(これがベッドシーンのための方便だということは50年代のギャング映画を通して文芸的な意味をおれは知っている)して、死んだふりして、すべてが破滅したと知って絶望して死ぬ(そしてカソリックであれ英国教会であれ、自殺がどれだけ重い意味を持つのか社会通念として誰もが知っている)物語なのだから、大人視線で見てかわいそうにならないわけがない。

ベンヴォーリオの日本人(クラークケントから取った芸名なんだろうか)のすかし方(個人的にはキュピレット家の舞踏会でロミオの目立ち方をごまかすためにマーキューシオが暴れた後に半回転しながら暴れるところはうまいなぁと思った)とラテン系っぽいマーキューシオのおどけ方(もちろん剣技も見事だ)はいずれも素晴らしい。急な代役だったと思うのに、ペネファーザーのロミオっぷり(なんかハムレットぽい気もしたが)も良い感じ。友人が、むしろコボーよりロミオらしくていいんじゃないかとか言っていたが確かにそうだな。ただ、3人揃って踊るところで息が見事に合わない(そもそも間隔がずれているし)のは急な代役だからか、ビデオでも顕著なロイヤルの集団舞踏の息の合わなさ(それが特徴なんだろうと思う)なのかはわからない。しかし急な代役にしてはティボルドとのちゃんばらに全く破綻が無いのですげぇなぁと感心したが、後からプログラムで見て見たら既にロミオ役を何度か演じたことがあるとわかって納得した。

バルコニーはなんじゃこりゃと思わずびっくりするマニエリックな装置。中央と右に階段。このシーンは有名だけど、バレエ全体としては初夜が明けた朝の別れの舞踏のほうが好きだな。

2幕。ティボルドは酔っ払って乱暴狼藉する設定(剣を受け取れずに落としたのはアクシデントなのか酔っ払っていて腕前が鈍っていることを示しているのか。というのは物語上、剣技(当然、優勝劣敗の世界)に関してはマーキューシオ>ティボルド>>>ロメオのはずだから最後にあっさりとロメオに刺し殺されるのはご都合主義が過ぎるからだ)。乳母をからかうときに3人がマスクをかけて舞踏会の夜を再現(しているようだけど乳母は気づいていない)する演出。やたらとロミオが乳母にキスする。

1幕目の騒動で寡婦となった婦人を含めた女性陣と、娼婦3人組が対立するという演出はこれまでもそうだったのかも知れないが今回気づいた。

それどころか傷痍軍人(軍人ってこたないだろうが)を舞台に出すことで、キュピレットとモンターギュの諍いが強調されている(のだと思う)。舞台右側2階から足を揺らせている二人組みがおもしろい。

3幕。

朝の別れ。バレエ版はどれをとってもきちんと二人が一緒に朝を迎えたことを強調しているが(確かシェークスピアでは小鳥の声についての言質でそれがわかる仕組みだと記憶している)、これも同じ。そっと出て行こうとするロミオにジュリエットが追いすがって一緒にマントにくるまってともにゃもにゃする可愛い演出。

このパリスは異常に積極的で、ジュリエットの嫌がりっぷりも派手。

で、一人残された後の暗い寝室でじっとジュリエットが固まる姿を強調する演出。固まる時間が長い分だけ、子供の浅知恵がもたらす悲劇を強調しようとしているのかな? おれはシティバレエ団の走りまくるジュリエットの演出が好きだが、この溜めに溜めた末にショールをなびかせて走る演出も良いと思った。

で、散々ためらい左に配置した十字架に祈って薬を飲み、ベッドに這い上がって仮死状態。

薬を渡す時に僧ジョンへ御遣いを頼まないだけに単刀直入。いきなりカタコンベ。

ロメオは左の柱の蔭から様子をうかがっている。パリスは無造作。あっという間に殺される。すげぇ早い展開。

で、ジュリエットのかんかんのう。どうしても日本人のおれは文化的にラクダのかんかんのう(白土三平の鬼の話にも引用されていたっけなぁ)が最初に頭に浮かぶので、どうにも滑稽な印象を持ってしまうのだが、もちろん哀切極まりないシーンではある。というか、コジョカルの脱力ぶりは見事だな。

ロメオは薬を飲んで床に崩れて寝台の左にもたれた状態で死ぬ。ジュリエット入れ替わりに目覚め、右から降りてすぐさまパリスを発見、血が手についてびっくり、すぐさまロミオを発見、あっというまに状況を把握。すぐにパリスのところに取って返して落ちてたナイフで腹を突く。そのまま倒れて、じわじわ寝台に上り、左のロミオに近づき手をたらして(バルコニーのシーンの最後と対称を成しているのだろう)幕。

最後のシーンの演出は熊川版のマルケスと熊川のほうが好きかも知れない。が、一幕の演出力はロイヤルのほうが良いし、3幕の説明抜きの割り切りっぷりも、こちらのほうが好きかも(まあ、どれだけ原作の知識を前提にするかで演出を変えるのは当然かも知れない。であれば熊川版の僧ジョンのエピソードは必須ということになると思うが、それはおれの勘違いでやはり誰でもシェークスピアは読んでいるかも)。

ロミオとジュリエット (白水Uブックス (10))(ウィリアム・シェイクスピア)

おれは小田島が好きだ。

それはそれとして、水曜日には苦悩に満ち満ちたルドルフを好演していたコボーがいきなり帰ってしまうのはよほどの家族の急病なのか、よほどの急病だとわかっていた故の水曜日の苦悩表現なのか、下世話にコジョカルと破局があったのか、とかいろいろな可能性があるキャスト交代ではある。それにしてもコジョカルは可愛いなぁ。

にしても、ジュリエットの死は神に対する異議申し立てという文芸的な意味があることを今回初めて気づいた。

沈黙 [DVD](イングリッド・チューリン)

追記:カーテンコールで幕を上げなかったけど、どうしてだろう? 墓だからそれはしないとかいう不文律でもあるのか?


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