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日々の破片

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2010-07-19

_ バーンスタインのマーラー全集

友人の家へ行ったら、バーンスタインのマーラー全集が安いから買ったとかいって聴かせてくれた。が、音が良いし、なぜか10番が入っている。

良くみたら、DG移籍後のやつで、いろいろ感じるところがあったので、タワーレコードへ行って、おれも買った。この内容で5000円を割っているとは信じがたい。

Mahler: The Symphonies(Mahler/Leonard Bernstein)

大地の歌が入っていないという欠点はあるが、10番まで含めて入っているし、コンセルトヘボー、ニューヨークフィル、ウィーンフィルだ。

とりあえず、10は聴く。

ウィーンを振っているのだが、今まで聴いていたオーマンディーはやっぱりオーマンディーだったと認めざるを得ない鋭い演奏。この音楽がほぼ無調音楽で、やはりマーラーは新ウィーン学派への道だったということが嫌味ではなく強調されている(たぶん第2主題に相当するのだと思う)。展開部の不協和音(9/12を使っているらしいがおれにはわからない)。オーマンディーを聴いていてもそういう要素はほとんどわからず、非常に美しい音色を持った世紀末のアラベスクといった趣であった。

4番(コンセルトヘボー)の歌があまり聞かない名前の歌手だと思ったらボーイソプラノで、なるほど、なぜボーイソプラノというものがあまり使われないかが良くわかる演奏。結局のところ子供なのだ。平板。しかし、天国の音楽を奏でる変わった音色の楽器として聴けば、こういうのもありなのかなぁ。

で、あまり好きではなく、大して聴いたこともない(おそらく中学のころ、ヴァルター&コロンビアで聴いたくらいではなかろうか)巨人(コンセルトヘボー)をあらためて聴いて、確かに最初の交響曲を作るにあたって、いろいろ研究したのだろうなぁとか、音色に非常に気をつかって作っているのだなぁとか録音が良いだけにいろいろ気付く。それにしても、コンセルトヘボーってこんなに優雅な演奏したっけな? とか思うまもなく展開部に入るとどんどんスピードが上がっておおバーンスタイン、とか思ったり。で静かになって、むこうでケッキョ、とかピヨピヨピーとか鳥の声が聞こえてきて、そこに弦が少しずつ合わさってきて、さっきまでの盛り上がりと合わせて、なんかもうすぐ山の上の草原だ、さあ走り出せ、と着いたところで寝転んで耳を澄ましているような、ありふれた情景音楽のような、なんというか、気持ちよさ。でも、良く聴くと弦は短調に変わるし、第一主題は薄暗く忍び足で近寄って来る。だいたいケッキョがフルートじゃなくなって、何か悪魔の物まねのようになってくるのが不気味だ。でもレントラー(だっけな?)ののんきな音楽が入ってきて、あれさっきのは何の気の迷いだったのかなぁとか、気分はすぐ変わる。変な音楽だな。

それにしても、10番を聴いていてつくづく思ったが、マーラーは本当に失敗したのだ。それも大失敗だろう。

単純化すれば、マーラーってのは以下のプロセスだ。

歌曲で練習つんで、巨人。やりたいことはたくさん、でもいまいちまとまらない。

で、復活。得意の歌曲と音色の変化をうまく利用して、構成力の弱さは歌詞で補い、まあよかったね。

で、メロディー作りの練習をして3番。

ここまでの練習を反映して4番。これは確かに傑作なのだと思う。短いから良く演奏されるのではなく、短くまとめることができたのだ。

そして5番を作る。ベートーヴェンを意識していないはずはなく、純器楽でそれまでに培ったすべてを注ぎ込んだのだろう。やはり、5番は傑作なのだ。ヴィスコンティが9番(これも録音はあったからつかえたはずだ)ではなく5番を選んだのも、そこら中のどうでも良いアンソロジーに収録されているのも伊達じゃない。傑作だからだ。

で、6番。5番の成功のあとだけに、本人もプロの(金を稼ぐ)作曲家として同工異曲で楽に作ろうと思ったのだろう。失敗した、失敗した、失敗したの打撃連打。

心を入れ替えて7番。ベートーヴェンだって7番では新機軸を打ち出したわけだし。で、かって書かれた交響曲の中で最も長くてつまらない(もっと長い曲もあれば、もっとつまらない曲もあるが、両方合わさったのはこれくらいだ)ので、夜の曲となってしまった。

心を入れ替え、初心にかえって8番。壮大なる失敗。というか、7番よりもましなのは歌詞のおかげで構成が保てているからではなかろうか。

さらに心を入れ替えて大地の歌。これはまぎれもない傑作だ。

で、9番。言わずと知れた傑作だが、待てよ、これは5番(と兄弟の6番)の優れた焼き直しに過ぎないのではないか? ベートーヴェンとはえらい違いだ。トリスタン以来の和音の不安定さに弦楽合奏の美しさと管をうまく混ぜ合わせた音色づくりの技術が生んだ優れた工業生産品のようなものだ。

そしてやっと時代精神を反映させようとした10番を完成できなかった。

これはやはり失敗した大作曲家にほかならない。

その19世紀末っぽい敗残の壮大な遺産を楽しめる21世紀。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
_ きょせん (2011-12-15 20:06)

はじめまして。<br>マーラー全集を検索しててこのページにきました。<br>面白いマーラー観で、一気に読ませていただきまいた。<br>19世紀の失敗した大作曲家の遺産という聴き方は<br>また違った楽しみ方だと思います。<br>私もそのように聴いてみたいと思います。

_ arton (2011-12-17 01:56)

初めまして。楽しんでいただけたら幸いです。<br>それにしても、いろいろな指揮者でマーラーの全集が楽しめるなんて、実にいい時代ですね。


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