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日々の破片

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2011-01-04

_ 前衛作曲家ブルックナー

友人と、なぜかブルックナーの話になる。

おれは、中学生の時、最初に買ったクラシックのLPがケンペがミュンヘンを振ったブルックナーの5番だということもあって、結構ブルックナーにはうるさかった。が、その後、あまり聴かなくなった。なので、最近の傾向にはうとい。

ブルックナー:交響曲第5番(ケンペ(ルドルフ))

(文字通り擦り切れるまで聴いたので、1楽章の出だしはシャーシャーボシャーボンボンシャーボシャーみたいな感じになってしまった。シャーシャーとか書いても今のわけぇもんにはわからんだろうてなぁ。しかし、良いジャケットだというか、当時、朝日新聞の夕刊の1/4面くらい使ってテイチクが広告を出したのを見て買う気になったのだが、まるで夢のようだな。テイチクってのも、新聞にそれだけのスペースで広告を出していたってのも)

多分、つきものが落ちたのは、朝比奈隆が日本じゃなくて東京に来て新日本フィルで8番を振るのを聴いたのが原因だと思う。

最後、まるでビルが崩れ落ちるようにソーミレドと来て、周りがパチパチの大嵐になったわけだが、なんか冷めてしまったのだった。

で、友人が言うには、ブルックナーの3番のワーグナーだがあれは前衛だよなぁ、と。

待てよ? とおれが疑義をはさむ。どうってことない作品だろ、あれは。どちらかというと、6番のほうが変だと思うし、むしろ3とか4とかは長さも普通だし、そんなに前衛とは思えないな。お前はハンスリックか?

いや違う、と友人が言う。そもそもブルックナーがまともに認められたのは7番からじゃん。

え、そうなの? 5番とか長いけど普通だと思うけどなぁ。まあ、6番は変だが。

いや、普通に交響曲を書けるようになったのは7番からで、おかげで交響曲作家として認められたんだよ。これ史実な。

そうなのか? あまり納得いかないけどな。

というのは、と友人が言う。7番が認められてブルックナーは、悟った。

何を?

おれは間違っていた、と。と友人が言う。

えー。

で、やつは、3番を書き直す。完全に。

えー。

で、やつは、4番を書き直す。完全に。

えー。

5も書き直す。

そうなのか?

6は書き直している最中に力尽きてくたばったので、まだ妙なところが残っている。その間に8も書いたし、9も途中まで書いた。結局、書き直しをしなければ、ショスタコヴィッチみたいに15曲は書いていたと言われている。

嘘くせぇな。

いや、これ事実。

ふむそうなのか?

で、こないだあたりから、原典主義者が3や4の原典を見つけてきた。つまり、書き直す前のやつってことだ。

なるほど。

で、それが日本でやったのをおれは聴きに行ったのだよ。

ふむそれで?

で、会場全体がびっくりしていた。

なぜ?

ハンスリックが正しいことがわかったからだ。

えー。

つまり、ハンスリックが怒りまくったブルックナーの3番とか4番ってのは、こういう音楽だ。最初さわさわと始まり、突然でっかな音が鳴ってずーっとでっかい音が鳴ってずーっと盛り上がりもへったくれもなくでっかな音が続く。はいブルックナーパウゼ。でっかな音でっかな音でっかな音。はいブルックナーパウゼ。

なんじゃそりゃ? っていうか、オルガン奏者の音楽そのものってことか?

その通り。あれは驚くぜ。突然でっかな音が鳴るとそのままでっかな音が鳴りまくってずーっとそれが維持されて突然ブルックナーパウゼ。提示部がどれで展開部がどれでとか全然わからん。というか主題はどれ? おれは今どこにいるんだ、というかアナリーゼを拒否するほどの大音量。うるせぇなー、はいブルックナーパウゼ。というわけで、今、聴けるワーグナーとかロマンティックとかは、7番で交響曲作法を理解した男の手によるまともな交響曲。

まあ、オルガン奏者ってのはトッカータは理解していてもソナタ形式を理解しているとは思えないしなぁ。

まさに、そういう調子で6番までは書いてたってことだ。

信じがたいなぁ。

いや、本当だよ。ひどい代物だぜ。少なくとも原典版は二度と聴かないだろうな。(と言いながら友人は去って行く)

というわけで、信じがたいので探したらふつうに原典版を売ってるじゃん。指揮者はハイヒールで颯爽とした指揮をするヤング(ホーレンダー引退記念良かったし、CDで聴いたヴァルキューレも良かったな)なので買って聴いてみた。

ブルックナー:交響曲第3番「ワーグナー」(1873年初稿版)(ヤング(シモーネ))

うーん、まともだけどな……と思うのだが、友人の話が頭にあるからか、突然でっかな音というのは言われてみればそうだなぁ(というか、5番とかもそうだし、それがブルックナーだと思うけど)。さすがに、第1楽章の最後(コーダかな?)はひどい話な気はするが。というわけで、初稿でもなんでもなく、友人はもともとブルックナーを聴いたことがなかったのではないかという疑問が湧かなくもない。

ああ、でも3楽章の最後はさすがにうるさ過ぎるかも。聴衆がマーラーと取り巻き10人ほど残して全員帰ってしまったというのもむべなるかな。

というか、おれはやっぱり歌もののほうが好きだなぁ。

ウィーン国立歌劇場ホーレンダー総監督フェアウェル・ガラ(2DVD)(DAMRAU DIANA (soprano))

(赤鬼が歌うホーレンダーちゃんの歌がなぜか耳に残る)

いや、というよりも、このホーレンダー総裁引退記念ガラが2600円で楽しめるというのは夢のような話だ。出産直後で太りに太ったネトレプコがわたしが街を行けばを唄い(良く出演を承諾したよな)、フリトリがモーツァルトを唄い、デッセーも出てくるし、名前忘れたけどとんでもない巨漢の白鳥の騎士、(コルンゴルトが入っているものポイント高い)。でも一番好きなのはローゲだけど。

_ 不良の音楽

で、ソーミレドのばかばかしさをおれは次のように聴いたのだった。

地方のオルガン奏者が大都会のいかした作曲家にあこがれて上京してきて、交響曲を書くっていうのは、つまるところ、ポリスなんじゃないか? ということだ。

アンディ・サマーズは売れないジャズギタリスト、スティングはしがない高校教師、コープランドは忘れたが、中途半端に年食った連中が一花咲かそうと髪をツンツンにして1曲2分の3コードロックをやる、ちょっぴりレゲエも取り入れてという構図にそっくりだ。あるいは、ソフトロックが好きなドアーズ狂いのインテリ大学生がマーケティングでベースブンブンのストラングラーズになるとか。

生まれついてのパンクなジョンライドンがヴァグナーで、梅毒で精神病院へ入れられたシューマンがシドヴィシャスなら、あるいはカリブの熱い風ボブマーリーがポーランドの寒い風ショパンなら、つまりこいつらは本物なわけだが、ブルックナーって、どうにもいかさまくさい。チェッカーズっぽいかも(後年、本物になるとか)。

どでかい音がボーボー鳴りまくるのを聴くのは快感だから(それはロックの音量と同じことだ)、いかれた若者がかぶれる(その中にマーラーとかシャルク兄弟とかがいる)のは当然だし、教養人が眉をひそめる(ハンスリック)のも当然だ。

おれは本物が好きだから、ヴァーグナーとリスト(上の喩で行くと、この男こそ孤高のザッパか、常に前向きニールヤングに相当する)にはお金を使うが、ブルックナーを聴くのはやめたのだというか、だったらポリスを聴く。

アウトランドス・ダムール(ポリス)

(1970年代のブルックナー)

で、7番に相当するのがシンクロニシティなんだろうな。

Synchronicity (Dig)(Police)

(7番で一皮剥けたブルックナー)


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