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日々の破片

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2018-03-05

_ かぞくへを観る

妻に誘われてユーロスペースのレイトショーで、かぞくへを観に行く。

予備知識なしに観始めたのだが(レイトショーなので広告予告編抜きでいきなり本編)、舞台は東京らしきアパート(狭い)で夫婦ものらしき2人が、誰を結婚式へ呼ぶかで話し合っている。妻側は15人に対して夫側は1人と言っている。施設育ちなので両親親戚はいないし、ヒロトという友達だけだ。それだとバランスが取れないとかで、妻の結婚式にかける意気込みとか、いろいろが語られる。語られるのだが、全然説明台詞ではなく、ちゃんと映画の話法で説明しているので、お、これは映画だ、と居住まいを正してあらためて観始めた。

物語は紆余曲折、これでもかこれでもかと偶然の積み重ねが夫婦の間に流れてくる。

最後、長い長い腰から上のショットによる長回しが橋の上まで来て収束する。

(1個所、アパートの入り口のシーンで撮り直したところの継ぎ目が悪いところがあって、そこがやたらと目立ったが、逆に言うと、そこが目立つくらいに、全体の映画としての流れは実にきれいで感心した)

終わったあと、おれの妻は、妻が発する「親って微妙」という台詞とその後の夫が駆け去る姿について語る。もちろんそれはキーワードではあるが、おれはあまりそこは気にならなかった。

それよりも、多分、お土産用に作っている偽物のケーキ作りを目覚めた夫が最初はベッドサイドの高さのやつを手にとって手伝おうとして投げ出すところ、次は机の上にあるのを手にとって手伝おうとして投げ出すところ、最後に机の上が片付いているところの表現っぷりに感心しまくっていた。妻によると、ご祝儀袋の熨斗を結ぶとか言っていたが、おれにはケーキの苺の飾りに見えた。どちらでもそれほど物語に違いはないので良いが(一方、ご祝儀袋と手作りのオーナメントでは資金力が相当異なるのでそれなりに重要ではなかろうか)、なぜこうも見えているものが違うのかちょっとおもしろかった。

心理映画としては傑作の部類だと思った。すさまじい居心地の悪さを感じるシーンがあって、そこは目を背けたくなる(同じことをトークショーのゲストの台本家かな?が語っていたけどまったく同感だ)が、まったくだれることなく映画が続く。

・一瞬、窓際のコートハンガーにぶら下がっている黒服に目をやってから結局そのままの姿で外に出るシーンとか。

喜多さん役の人が店のシーンで最初に見せる行動がえらく印象的なのだが、終わったあとのトークショーでも語られていたので、どうもその道では有名な怪演人らしい。

妻はあと、ちょび髭ネズミ男みたいな役柄の役者が実に美青年だと言っていたが、おれにはまったくわからなかった。おそらくクーリャン街のエンジェルみたいに、何気ないシーンで素顔がわかる瞬間が切り取られていたのだろう。

トークショーで語られた事務員の裏設定についての話と、住所を渡すところのシーンの突き合わせはおもしろかった。

・突然思い出したが、現役のボクシングコーチと漁師という肉体派が、都会の詐欺師との追っ駆けっこで差をつけかれるのは体力的におかしかないかというリアリズム的な疑問が湧いた。

・共同貯金通帳の扱いが、振り込まれていないことの指摘、施設への入所で金がかかると言って渡されたところ、ちょっと考えて持って行くことにしたところがあって最後の爆発になるとか、実にうまいと思った。

#思い出したが、この映画の何がすごいかっていうと、冒頭でちょっとだけ語られて全編では全く語られないことの映画だということで、しかもそれに対して文句のない了解が出来てしまうことだ。(トークショーで夫役の人がちょっと話していたが、別に作家からの説明はなかったようなので、どれだけ厚みのある作品なのか、それはすごいことだ)


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