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日々の破片

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2022-02-26

_ 矢嶋楫子の映画を観る

新宿のK'sシネマという耳慣れない映画館で「われ弱ければ」

JGの初代学長ということくらいしか知らずに観に行く。

映画としてはともかく(そつはないけど紋切り型が多く、伝記映画という枠組みのせいか個々のエピソードの細切れとなるのでどうにもテレビドラマみたいだ。とはいえ、耳にした音楽の美しさに煙管を置いたまま礼拝堂へ進んで立ちすくすとか各エピソードを構成する一連の流れはうまいのだった)、楫子という主人公が実に立派な人で感動的だった。明治期に名を残した女性に特有だと思うが、世は御一新だから自分も後続の人のために新しい時代の尖兵として戦うという気概に心を打たれる。

もっともそれを言い出すと、そもそも矢嶋楫子を学長に置いた元の築地の伝道師の妻というか(なんだっけ)の選択眼が抜群ということになるのだろう。楫子についてのネガティブな話をすべて知ったうえで、逆にそれだからこそ学長にふさわしいと考えるある種の抜群の逆張り思考(その端的な例が、まったくキリスト教の知識がない楫子を聖書の授業担当におくことに現れている)の先見性がすごい。

熊本藩の医者の家の末娘として生まれた楫子(最初は異なる名前なのは、女子ばかり生まれるので父親が名前もつけずに放ったらかしにしているので姉が適当な名前をつけてくれるのだが、なんて付けたか忘れた。おすえ、かなぁ)は学問好きもあって医師の兄の助手を務めていたのだが、その兄の勧めもあり横井小楠の弟子筋の武士に嫁ぐ。が、この男は消え行く武士という存在に対する焦燥と元々の酒癖の悪さもあり酔うと乱暴狼藉(どれだけおっかないか、下働きの娘たちを描写することで示しまくる)、ついに子供と自分の身の危険を覚えた楫子は家出して、三行半を叩きつける。これが日本で最初の女性からの離婚申請ということで歴史に刻まれる。その前にもこの男は妻から離縁されているのだが、そちらは勘定に入っていないということは妻の実家の親父からの申し立てということなのだろうか。

が、ごりっぱなお武家様に三行半を叩きつけた恥知らずな女と、さすが熊本は田舎でござると厄介なことこの上ない。そこに先に東京に出ていた兄から上京を促されて故郷を離れることにする。この時点で、自らの運命を自らの楫取りで行うと決意して以後楫子と名乗ることになる。

が、兄の家について愕然、床の間の花は枯れているし、女中は団子を食いながらさぼっているし、どうにもおかしい。かくして兄に申し入れて自分が家を采配することにする。女中は追い出して、書生群(たくさんいる)に当番制を敷く。

そのころ、明治政府は義務教育導入により大量に教師が必要となり、兄の勧め(ここでも兄の勧めだな)もあって教員教育を受けて教師として勤めることになる。

事実なのだろうが紋切型でもある、優秀な生徒が貧困のために学業を放棄せざるを得ないような現実を体験したり、悪いことをした子供を叱るのではなく抱きしめる築地の謎の教師(伏線だなとわかるわけだがどうも史実らしき事件とうまく組み合わせてある)の噂を聞いたりしながら教師として自立していく。その一方で良くできた書生と恋に落ちて子供を産むのだが、それなりに開明的な書生ですら妾にしようかと持ち掛ける程度の人権意識の時代でもある。その後の廃娼運動などの思想的な種が撒かれる(しかし、この団体が日中戦争以降にどう振る舞うことになったかとかいろいろ考えるものはある)。

・不義の子を自分で育てようとして結局里子に出してしまうとかなんとなく伊藤野枝(時代は数十年下るわけだが)などとも重なるが、どうも明治~大正の一部の社会と、現在認識されている明治期は相当異なるものがあるなと思う。

ただラストがカヴァレリアルスティカーナ(浮気を巡る刃傷沙汰を主題とした歌劇)の間奏曲なのはいかがなものか,(なにも考えずにメロディの美しさだけで選んだのだろう)とちょっと興覚め。


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